2020年の春のこと

2020年の春のこと

いつもよりも早かった桜が満開だったのも束の間、慌ただしく変化するCOVID-19の情勢に、いろんなことが次々と中止になりながら、仕方ないのだという諦めの混じった様子で卒業生が巣立っていきました。大学会館の周りにも、学生の晴れ姿はごくわずか。誰も体験したことのない門出になりました。新しい生活も、この情勢の中では軌道に乗るまで時間がかかるかもしれませんね。でも筑波大学での成長が基軸にあります。「ここだな」「これかな」「この人は」と思える何かとつながり、これからの時間が豊かなものになっていきますよう、応援しています。

4月になって年度が変わり、瑞々しい新入生を、そして溢れる歓声で「ようこそ筑波へ」と祝い導く先輩たちを、見かけることなく、キャンパスは静かなまま、枝の黄緑だけが濃くなっていきました。新1年生の中には、高校の卒業式もなかった人がいるかもしれませんね。浪人生活を頑張っていた人にとっては、拍子抜けの日々ではないでしょうか。大学院から筑波に来て戸惑いのある人もいると思います。あるいは、次はこんな年にしようと思っていたのに不意にその動きが取れなくなった人も、就職活動や進路の見通しが不確かなままパソコンの画面を見つめるしかない人も、いることでしょう。そう思っているうちにみるみる、出勤できる教職員も限られ、ひとりひとりがどんな春を送っているのか、どんな思いで過ごしているのか、お聞きすることができなくなりました。みなさんの大事な時期に、そしてむしろ例年以上の支援を提供できたらよい事態に、十分な受け皿を用意できず、心苦しく思っています。

「密」の回避が求められ、「不要不急」が削ぎ落とされたこの「自粛」生活が、そして非日常の雰囲気が、むしろ過ごしやすいと感じた人もいるかもしれません。その発見は貴重で、実に検討に値します。のちの生活にも残し活かしていける要素が何か、工夫を考えましょう。一方に、不慣れな生活を強いられ、活動制限がどうなるのか、失望の繰り返しで心が疲れて意欲が続かず、閉塞感や孤立感の中で無表情の時間を過ごしている人もいるのではないかと案じています。クラスや研究室、大学とのつながりや相談室とのつながりを、感じられないまま途方に暮れている人が、いないようにと祈りつつ、いるだろうとも思っています。あなたをひとりにしないように何とかできないかと考える人間が、大学や社会のあちこちにいることを、どうか覚えていてほしいと願っています。

心身の調子が本来と違うという人もいるでしょう。どのように違うかはその人その人で多様です。ご自分の場合はいかがでしょうか。不調を軽視したり弱さだと責めたりせず、どういう点に負担を感じやすく、どういうサインが出やすいのかを観察し、どんな対処法が効くのか試行錯誤して、自分自身の大事なデータにしていきましょう。また、不調だけでなく、日常とは違うからこそ見えること、気付くこともあるでしょう。自分が何を大事にしたいのか、何を快適と感じるのかも、これを機にくっきりとしてきたところがないでしょうか。それはこれからの折々の選択の場面で、指針にできるものだと思います。

この文章がおもてに出る頃には、学生相談室も再び、みなさんの声をお待ちしているはずです。困りごとや滞りがよりよい方向へ展開していくようにというのはもちろんなのですが、この春の思いや経験を、ぜひ語ってほしいと思っています。聞き届ける人がいてこそ生きる言葉があります。宙に浮かざるを得なかった区切りや節目の感覚が、対話の中から立ち上がることがあります。これらは心が前に進むときに、必要な実感です。長くお待たせしてしまいましたが、どうぞご利用ください。

2020年5月28日 学生相談室カウンセラー(杉村)